バレリーナの森下洋子さんは古希を超えてなお、現役のプリマドンナとしてハードな舞台で活躍中です。あるとき、インタビュアーが彼女に「森下さん、舞台で踊るとき、何を意識しますか。次に踊る順番ですか?」と質問しました。彼女は「いいえ、そんな事をしたら踊りに乗れません。私が舞台で意識することは、ただひとつ、首を伸ばすことだけです。首を伸ばしさえすれば踊りは美しくなります」と答えたそうです。優れたバレリーナの多くは、首が長く、身体の軸が垂直に通っている感じがします。
① 練功動作のとき首は伸ばしましょう
あごを引いて姿勢をよくしましょう。しかし、あごを引くといってもあごを下に落とすのではなく、首全体を後ろに引くのです。頭を体の重心線、耳と肩(肩峰)の垂直ライン上に乗せるようにします。そして、肩は下に、首は上にグーッと引き離すようにして、首を伸ばすことを意識することです。
② 練功動作のとき首はゆっくり動かしましょう
⑴ 首は人体の中で最大のウイークポイントといわれます。細く狭い首に食道、気管、脊髄神経、頸動脈、甲状腺など大事な器管が集中しています。しかも細い首は重い頭を支えています。
頭の重さは体重の10分の1といわれ、体重50Kgの人だと約5Kgに相当します。約5Kgの頭は15度前傾すると12Kgの負荷が首にかかります。30度で18Kg、45度で22Kg、60度で27Kgになります。
首がこる人の多くは、あごが前に出ています。当たり前のことですが、背骨が正しく頭を支えることがとても大事です。
⑵ 首の筋肉は、腹筋、背筋のような強い筋肉ではありません。細い首を速く左右に曲げたり、グルグル回旋させたり、強く前屈・後屈させたりするのは首へのダメージが大きく、危険です。
前段・後段・益気功には、各節の動作に併せて首を動かす頸椎の動作が極めて多いのです。練功運動の中で一番多い動作ではないかと思うほどです。主動作に伴う首の動きにも充分、心配りをして練功をするようにしましょう。
最後に、「首」の文字について触れます。
「くび」には、「首(しゅ)、頸(けい)、頚(けい)、項(こう)」の字があります。頚は、頸の略字です。頸は、首の前面をいい、項は、うなじ、首の後面をいいますので、前段第1節 頸項争力(じんしゃんじょんりー)は、首全体を動かす運動ということになります。文中では、漢語としての「頸」ではなく、和語としての「首」の字を使いました。
日本健康づくり協会代表
松浦祐己
(まつうらゆうき)